RWC2019

150%の力を注ぎ新たな歴史を作る──ジョセフHCの日本代表「選考基準」

斉藤健仁の「ジャパンの現在地」第12回
2019.8.30 18:00

 8月29日(木)、9月20日(金)に開幕するラグビーワールドカップ(W杯)に出場するラグビー日本代表の最終スコッド31名が発表された。

 W杯の予選プールで、ロシア代表、アイルランド代表、サモア代表、スコットランド代表とFWの大きな相手と対戦するため、FWのメンバーを多くしたFW18人、BK13人というメンバー構成になった。キャプテンは前回大会に続いてFLリーチ マイケルが務める。

 端的に言えば、大きなサプライズはなかった。 ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が就任して以来、初めて世界ランキング的に格上に勝利したPNC(パシフィック・ネーションズカップ)のフィジー代表戦のメンバーを含め、PNCに出場した選手は、左PR三浦昌悟、左PR山本幸輝の2人を除いて27人全員が選出された。

 またリーチキャプテン以下、10人のリーダーグループは当然、全員選出された。リーダーグループはPR稲垣啓太、FLピーター・ラブスカフニ、FL/No.8姫野和樹、SH田中史朗、SH流大、SO田村優、CTB中村亮土、ラファエレ ティモシー、WTB/FB松島幸太朗の9人だ。

 ジョセフHCは選手に練習でも試合でも「一貫性」を求め続けており、PNCで活躍した選手がそのままW杯の最終スコッドにも選ばれた。また残りの4人のうち2人は6月から7月に敢行された宮崎合宿中に負傷した右PR具智元、左PR中島イシレリの2人だ。PR具はスクラムも強ければ、フィールドプレーでも秀でた選手であり、PR中島は今年になってNo.8から転向したが、体格、フィジカルに長けている。この2人のケガは回復傾向にあり、W杯に間に合うということで順当に選ばれた。

 さらに、SHや右PRなど専門性の高いポジションは3人ずつ選出する一方で、ジョセフHCは複数ポジションできる選手を重宝している。それはW杯では、負傷していったんチームから離れると大会中はスコッドに戻れることができないからだ。「FWでもBKをカバーできる選手を入れなければいけない、BKでも複数のポジションをカバーできる選手を入れなければいけないということを考慮して選考にあたった。ケースバイケースですが、(ケガが出ても)チーム内の31名でカバーできるように試行錯誤し、今回のメンバーになっている」(ジョセフHC)

 たとえばLOは4人選考されているが、LOヴィンピー・ファンデルヴァルトはもともとバックローの選手で、ヘル・ウヴェもトンプソン ルークもFLでもプレーできる。FL/No.8登録の姫野和樹もLOでもプレーしている。またBKのメンバーを見ても、SH3人、WTB福岡堅樹の4人以外は、登録ポジション以外でもプレーできる。 BKではPNCで唯一、出番のなかった23歳と最年少のWTBアタアタ・モエアキオラが選出された。WTB福岡堅樹、松島幸太朗、レメキ ロマノ ラヴァ同様に「Xファクター(特殊能力)」を持った選手である。指揮官は「アウトサイドBKは非常に優秀な選手が揃っていますが、アタアタは非常に大きくてパワフルな選手です」と選出した理由を語った。今年、チーフスでのプレーしていたモエアキオラはWTBだけでなく、SO、CTBでもプレーでき、大学時代はNo.8としても試合に出場しており、決定力が高いだけでなく、複数ポジションでプレーできることが決め手となったようだ。

 そして、小さなサプライズとなったのはHO堀越康介が選ばれず、ノンキャップの北出卓也が選ばれたこと。そしてベテランで前回大会も経験した右PR山下裕史が外れて、若手のPR木津悠輔が選ばれたことだ。

 まず3人目のHOに北出が選ばれたことについては、セットプレー、特にラインアウトのスローイングに関して堀越より上だったことが理由だった。「(堀越は)HOのスキル、ラインアウトでのスキルが他の選手より劣ってしまうということがありました。1年間で育成、指導しましたが、スローイングは北出の方が堀越より上だと判断した。(堀江、坂手の)バックアップとして、プレッシャーがかかる中で難しいスキルを発揮できるのは北出だと思いました」(ジョセフHC)

 また今年のサンウルブズでスクラムの強さを見せていた右PR山下ではなく、若手の木津が選ばれたことに関しては、指揮官は言明しなかったが、ジェイミー・ジャパンは「世界一のフィットネス」を標榜しており、PNCでは相手に合わせてパスとランラグビーで3連勝したが、コンテストキックを使ったアンストラクチャーラグビーが自分たちの形である。そのため、宮崎合宿、網走合宿でフィットネスを鍛え上げており、全選手がパーソナルベストを更新したという。

 当然、PRの選手にもフィットネス、接点での強さ、パススキルを要求しており、右PRヴァル アサエリ愛、右PR具、左PR中島も同じような理由で選ばれている。そして右PRの3人目として山下ではなく若き木津が選ばれたというわけだ。

「3年前からどこに着目して、一番こだわって選手たちとやってきたかというと、個人個人のスキルや役割です。この3年間、いろんなトレーニング、ゲームを経て、プレッシャーがかかっている中でも自分たちでもしっかり考えて、しっかりアンストラクチャーでもプレーが遂行できるようになった。それができる選手たちが今回、選ばれています」(ジョセフHC)

 ジョセフHCは、上記のような理由で、悩みつつも31名を選出したというわけだ。またW杯で戦うにあたり日本代表の武器を聞かれて一つ目は「スピードのはやい展開、スキルを活かして、アンストラクチャーで自分たちの強み発揮することです。現在、トレーニングではテストマッチのもたらす強度よりも25%高い強度の中で練習ができるようになりました。それが実証できたのがフィジー代表戦です。熱い中、相手より長い時間、強度の高い試合をして快勝することができました」と語った。

 2つ目として「もう一つの強みは形がないものです。非常に日本代表は結束力の高いチーム、『ワンチーム』になったと言えます。私はHCとして、そこを一番に重んじてコーチし、チームを指導してきました。チームのためなら何でもできる。身体も張れる、死ぬ覚悟でいけるという気持ちを持った選手たちを鍛えるのが私のひとつの目標です。今、選手たちは意志統一されて、同じ絵を見て励んでおります。だから、この2つが強みになると思います」と胸を張った。

 2月からジョセフHCの下、サンウルブズとウルフパックという2つのチームで強化を進めてきた。「我々はトップ8というこれまで掲げたことのない目標を掲げて、難しいチャレンジにはなるが150%の力を注いでそこに邁進したい。目標を達成できるかどうかはその時になればわかる」。選手時代にニュージーランド代表、そして日本代表でもW杯を経験している指揮官の目は自信に満ちあふれていた。

 

◇ラグビー日本代表 最終登録メンバー31名

◎:キャプテン ☆:ワールドカップ出場回数 ( )内は所属チーム、キャップ数

 

■FW18名

PR稲垣啓太(パナソニック、28)☆

PR中島イシレリ(神戸製鋼、2)

PR具智元(Honda、7)

PRヴァル アサエリ愛(パナソニック、8)

PR木津悠輔(トヨタ自動車、3)

HO堀江翔太(パナソニック、61)☆☆

HO坂手淳史(パナソニック、16)

HO北出卓也(サントリー、0)

LOトンプソン ルーク(近鉄、66)☆☆☆

LOヴィンピー・ファンデルヴァルト(NTTドコモ、12)

LOヘル ウヴェ(ヤマハ発動機、13)

LOジェームス・ムーア(宗像サニックス、2)

FLツイ ヘンドリック(サントリー、44)☆

FL徳永祥尭(東芝ブレイブルーパス、11)

FLリーチ マイケル(東芝、62)◎/☆☆

FLピーター・ラブスカフニ(クボタ、2)

FL/NO8姫野和樹(トヨタ自動車、12)

NO8アマナキ・レレィ・マフィ(NTTコミュニケーションズ、24)☆

 

■BK13名

SH田中史朗(キヤノン、70)☆☆

SH流大(サントリー、18)

SH茂野海人(トヨタ自動車、9)

SO田村優(キヤノン、57)☆

SO/CTB松田力也(パナソニック、19)

CTB中村亮土(サントリー、18)

CTBラファエレ ティモシー(神戸製鋼、17)

CTBウィリアム・トゥポウ(コカ・コーラ、9)

WTB福岡堅樹(パナソニック、33)☆

WTBアタアタ・モエアキオラ(神戸製鋼、3)

WTBレメキ ロマノ ラヴァ(Honda、11)

FB/WTB松島幸太朗(サントリー、33)☆

FB山中亮平(神戸製鋼、13)

この記事を書いたひと

斉藤 健仁KENJI SAITO

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365 」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。