RWC2019

サンウルブズの歴史的勝利が示した日本ラグビーの成長曲線

斉藤健仁の「ジャパンの現在地」第1回
2019.3.8 19:43

だ、ただ誇らしかった。3月2日(土)、スーパーラグビー参入4年を迎えたサンウルブズは、優勝2回を誇るニュージーランド(NZ)の強豪チーフスにアウェイのハミルトンで15-30と快勝した。

 

第3節での勝利は開幕から過去最短であるだけでなく、サンウルブズがアジア圏以外で、そしてアウェイの地で勝ったのは初めてのことだった。まさしく歴史的白星となった。

 

連敗中のチーフスは数名の選手を温存したが、ホームで勝利を確実につかみたいためにLOブロディ・レタリック、SOダミアン・マッケンジーと「オールブラックス」ことNZ代表の中軸を先発起用した。

 

そんなNZの強豪相手に狼軍団は試合開始早々から牙をむく。素早いアタックを仕掛ける。LOヘル ウヴェの力強いゲインで前に出て、最後は右に展開し練習生から本メンバーになったFL松橋周平が右隅に押さえた。その後も名手SOヘイデン・パーカーのPGやLOヘルのトライなどで3-23と大きくリードして前半を折り返した。

 

後半は相手に押し込まれる時間もあったが、好調を維持するWTBゲラード・ファンデンヒーファーのトライもあり、15-30で下した。2015年のワールドカップで日本代表がオールブラックスに7-83で大敗したあのワイカト・スタジアムで、日本のスーパーラグビーチームがNZのチームから白星を奪取する。胸がすくような勝利だった。

 

ただサンウルブズが敵地で勝利したこと以外に、この勝利は日本ラグビー界にとって大きな意味、意義を持っていると言えよう。

 

2015年にハイランダーズの指揮官として優勝を経験し、2016年9月に日本代表の指揮官に就任した、世界も日本もよく知るジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)はことあるごとに、選手たちの「ウェルフェア」について訴えていた。具体的に言えば、ワールドカップでトップパフォーマンスに持っていくために、試合数は年間30試合強に抑えて、一度、ラグビーから離れてオフをしっかり取ることである。

 

スーパーラグビーに参入した目的は、「勝つことと高いレベルでの選手の育成」(ジョセフHC)であるが、日本代表の中軸は、テストマッチ、スーパーラグビー、トップリーグと試合過多の状況に陥っていた。

 

今年はサンウルブズの指揮官を退き、「チームジャパン2019総監督」という立場で日本代表の指導やマネジメントに専念しているジョセフHCはトップリーグのシーズンを早め、ワールドカップイヤーである2019年に迎えるにあたって、1年間の試合出場時間数が多い選手に40日ほどのオフを与えた。日本代表の中心選手たちは、しっかりオフを取ってから、2月に集合し日本代表候補合宿を行っており、今年のスーパーラグビーは、3月いっぱいまで合流しないというスケジュールとなった。

 

一方で、いわば「もう一つの日本を代表するチーム」にあたるサンウルブズは1月中旬から千葉の市原で始動した。ジョセフHCの右腕であり日本代表のアシスタントコーチも務めるトニー・ブラウンが新たにヘッドコーチに就任。今年のサンウルブズは、半数は日本代表の資格のある選手で昨年の試合出場時が少なかった選手と、残りは「マーキープレイヤー」と呼ばれる外国人選手で構成されていた。

 

しかもブラウンHCは戦術を落とし込むと、2月には一度、チームを離れる。ジョセフHCとともにシックス・ネーションズ視察を行った後、3月中旬まで日本代表候補合宿での指導にあたり、スコット・ハンセンHC代行がサンウルブズの指揮を取ることになった。

 

いきなりヘッドコーチ不在で戦えるのかー-やはり、それは予感は悪い方向に出てしまい、開幕戦はホームのひとつシンガポールで10-45と南アフリカのシャークスに大敗し、「やはり、今年もダメか……」と思ったファンも多かったかもしれない。

 

だが、ここからサンウルブズ素晴らしいレジリエンスを見せる。1週間でチームは見事に修正し、第2節はホームの東京でワラターズを苦しめ、30-31で敗戦したが、あと一歩で勝てるという試合を演じた。そして迎えたチーフス戦に、見事に修正、改善しアウェイで歴史的勝利を飾ったというわけだ。

 

やはり、コーチ陣の指導、4年目を迎えて積み上げてきたチームの経験値、昨年からチームにいる選手も多くゲーム理解が早かったということ、そして、ワールドカップ出場を見据えて気持ちの入ったプレーを日本代表候補選手たちが見せ続けたことが勝因になったと言えよう。

 

実はチーフス戦のサンウルブズの先発は、15人中11人が日本代表経験者やワールドカップ出場資格を得られる可能性のある選手だった。ケガ人が出たこともあるが実力でポジションを奪ったというわけだ。PR山下、FL松橋、LOヘル、WTBファンデンヒーファー以外にもHO坂手淳史、LOトンプソン ルーク、FLツイ ヘンドリック、No.8ラーボニ・ウォーレンボスアヤコ、SH茂野海人、CTBシェーン・ゲイツ、WTBヘンリー ジェイミーがそうである。

 

「試合は見ているし、パフォーマンスで判断する」とジョセフHCが名言しているとおり、サンウルブズでのプレーがセレクションの材料になっていることは明白だ。ジョセフHCはチーフス戦後、「山下、坂手、松橋がスーパーラグビーですごくいいパフォーマンスをしていました。山下は具(智元)と比べると成熟した選手だと思いますし、年齢はいっているが先週のようなパフォーマンスするなんて驚き」と珍しく名指しで選手を褒めた。

 

サンウルブズ、日本代表候補の2つのチームをマネジメントしている立場としてジョセフHCは「パフォーマンスが上がると競争力が上がる。今の(2つのチームを平行して強化する)プログラムがうまくいっているかいっていないかはパフォーマンスで評価できる。60人くらいの選手をいろいろ吟味できます。いい試合をして、しっかり層を厚くして、ポジション争いを健全に作っていきたい」と胸を張った。

 

もちろん、サンウルブズの奮闘ぶりは、日本代表候補合宿に参加している選手たちにも大きな刺激になっているという。日本代表としてワールドカップに出場できるのは31名。6月に宮崎で行われる日本代表候補合宿は40名前後で行われるという。相乗効果により、同じポジションの選手が活躍している選手は否が応でも気合いが入っているだろう。

 

チーフス戦の勝利は、アウェイでの初勝利以外にも、サンウルブズと日本代表候補と2つのチームで日本代表の強化に当たるというジョセフHCのマネジメントが上手くいっているということ、激しいポジション争いを生んでいること、さらに、ワールドカップを控えて日本代表全体の層が厚くなることにつながっているというわけだ。

 

サンウルブズは引き続き試合が続くが、日本代表候補選手たちは3月10日から10日間、沖縄で合宿をする。その後はサンウルブズに合流する選手もいれば、昨年のJAPAN A同様に「ウルフパック」としてスーパーラグビーのBチームと5試合行い、実戦経験を積む選手とに分かれる。現在、サンウルブズで戦っている日本代表候補選手の中には、合流した選手の替わりにオフを取る選手もいるという。

 

現在は、代表候補合宿に参加する日本代表主将のFLリーチ マイケルは、現在の強化体制を歓迎しており、「サンウルブズで試合ができるのは、大きなアドバンテージ。僕らは(W杯までの)、ずっと強化できる。だから(W杯では)言い訳はできない」と意気込んでいる。

 

今年のサンウルブズはプレーオフ進出を目標に掲げており、個々の選手の成長やポジション競争を促しつつも、さらなる勝利を目指す。スーパーラグビーを経験し大きく成長した日本代表候補選手に増え、ジョセフHCが誰を起用しようか悩ますような状態になることこそが、ワールドカップでの日本代表の勝利につながっていく。

この記事を書いたひと

斉藤 健仁KENJI SAITO

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365 」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。